月別アーカイブ: 2012年1月

低酸素トレーニング


 
 
さて、低酸素トレーニングです。
 
 
ここでいう低酸素トレーニングとは、

低酸素室でトレーニングすることを指します。

我々は1/5に、三浦雄一郎さんが主宰する、

ミウラドルフィンズの低酸素室に行って来ました。

低酸素室とは、密閉した空間の酸素量をコントロールすることで高高度の空気を再現するものです。

このミウラドルフィンズの低酸素室は6,000mの高度の酸素濃度まで体験でき、

国内最高レベルの性能を有しています。

今回は初回であることから4,000mの高度に合わせて、高所テストを受けました。
 
 
19:00にミウラドルフィンズを訪問すると、早速テスト開始です。

最初は身長体重など、テスト結果の算出に必要な情報について問診を受けます。

また、低酸素室に入る前に、血圧、心拍数、肺活量、バランス能力を計測しました。

[結果(長島)]
血圧:(拡張期)152mmHg, (収縮期)74mmHg
安静時心拍数:57回 / 分
肺活量:4,860ml
閉眼片脚立ち:30秒

血圧は良好。

心拍数も普通。

肺活量も問題無い。(19歳平均:4,330ml)

閉眼片脚立ちは・・・

ん?体年齢56歳!?(19歳平均:91秒)

ちなみに海老澤さんは難なく平均を超えていました。
 
 
気をとりなおして、低酸素室入室の準備をします。

指にパルスオキシメーターという器具を装着されました。

これは、血中の酸素濃度(SpO2値)を調べる機械で、

この値が体調管理の指標になります。
 
 

低酸素室入室(想定標高:4,000m)

 
 
うっ、息が苦しい・・・

と、なるかとおもいきや別になんとも感じません。

しかし、パルスオキシメーターの値はみるみる下がっていきます。

部屋の外では97%〜99%で推移していた数値が

80%〜85%まで下がっているのです。

ちなみに平地での救急医療の常識では、

80%まで下がれば即、集中治療室行きだそうです。

山においてこの値でも登山が継続できるのは、

低酸素の環境に人体が適応(高度順応)するからなのです。
 
 
今回のテストでは60分の間、低酸素室に入りました。

安静→軽い運動(ウォーキング)→睡眠、を20分ずつです。

これがその時のSpO2値と心拍数のグラフデータです。

SpO2の値がギザギザになっているのは、

5分おきに意識的に呼吸をしているからです。

呼吸のやり方は個人によって効果的な方法は多少異なるようですが、

一般には、深呼吸をすることよりも息を吐き出すことを意識したほうが

体内の二酸化炭素が減り、酸素を多く摂り込めるそうです。

上のデータを見ても分かるように、呼吸を意識すれば

体が必要とする量の酸素を摂取することは可能です。

逆に、どんなに呼吸を頑張ってもSpO2値が上がらないときは

負荷が限界を超えているということであり、高山病の発症につながります。

今回の遠征ではパルスオキシメーターを持っていくため、

行動の判断をくだすための客観的データとして利用しようと考えています。
 
 
次に海老澤さんのグラフデータです。

私のデータと比較すると、最後の20分(睡眠時)の値が低いことがわかります。

平地と同様に、高所においても睡眠中は呼吸が浅くなります。

平地においてはそれでも充分に酸素を摂取できますが、

高所においてはそうはいきません。

ぐっすりと眠ってしまうと、翌日にはほぼ確実に高山病にかかっていることでしょう。

意外かもしれませんが、高所においての睡眠はリスクの高い行動なのです。

したがって寝るときは深い眠りにならないように座って寝たり

ときどきトイレに起きたりしたほうが良いと言われています。

特に、高山病にかかっている場合は睡眠をとることはむしろ危険な行為で、

ただちに下山する(標高を下げる)ことが最善の策といえます。

ただ、トレーナーの方によると、海老澤さんのこの結果は別に問題ない値とのことで、

ふたりとも今回の遠征で必要な高所への適応能力があることが実証されました。
 
 
遠征直前の2/16,17に3時間ずつ低酸素トレーニングすることを決めて、その日は帰宅いたしました。

山のリスク-1 高山病


 
今回は、高山病対策について紹介します。
 

皆さんは高山病の経験はあるでしょうか?

標高の高い山に登ったときに、頭痛や吐き気に襲われる病気です。

標高に体が慣れると、数時間〜数日で症状は解消されますが、

重度の高山病になると、脳浮腫や肺水腫を引き起こす深刻な病気です。

これは、標高が高ければ高いほど空気中の酸素濃度が低くなることが原因です。
 
 
日本では、やはり富士山で発症する方が多いです。

私も5歳の時に富士山に登って、9合目付近で動けなくなったことがあります。

しかし富士山の標高は3,776mで、一方B-P Peakの標高は5,718mです。

富士山でさえ高山病が発症するというのに、さらに2000m近く高いところに行くのですから、

高山病にならないわけがありません。

実際、どんなに熟達した登山家でも4,000m〜5,000mまで行くと、

何かしら症状が出るといいます。
 
 
では、どんな対策があるでしょうか?

ヒマラヤなどの高山を登る人は皆、「高度順応」をすることで低酸素状態に体を慣らします。

具体的にどうやるかというと、2つの方法を組み合わせて行います。
 
 
1つは、

徐々に標高を上げていく方法

 
急激に標高の高いところに上がると、環境の変化に体が対応できず高山病になるからです。

B-P Peak遠征に照らして言うと、

トレッキング開始のシャブルベシからベースキャンプのキャンジン・ゴンパまでは、

急げば2日でいける行程ですが、徐々に高度を上げるため、3日で行く計画にしています。

 
 
もう1つは、

1度高いところに登って、下りる方法

 
せっかく登ったのに下山してしまうのはもったいない気もしますが、

1度標高の高いところに上がっておくと(その時高山病になったとしても)、

次に登った時には、その標高では高山病にならないのだそうです。

今回の遠征では、ツェルコ・リ[5,033m]という山を、高度順応を目的に登頂する予定です。

 
 
以上は実際の遠征での高山病対策ですが、日本にいても、ある程度の対策ができます。

これも主に2つあります。

1つは、

富士山に登る方法

 
日本でなるべく高いところに行くとしたら富士山に行くしかありません。

ヒマラヤ遠征に行く人の多くは、富士山に登って高所訓練を行います。

ただ、今回の我々の計画にあわせて富士山に行こうとすると、厳冬期の登山になります。

厳冬期の富士山は、アイゼンも効かないクラストした斜面と、

独立峰であるがゆえの突風に晒されるため、B-P Peakよりずっと危険な山と化しています。

この方法での訓練は現実的ではありません。

したがって、もう一つの方法で行います。

それが、

低酸素トレーニングです。

 
人工的に低酸素状態の空間を作り出し、その中でトレーニングを行います。

我々は、1月5日に最初の低酸素トレーニングを行いました。
 
次回は、低酸素トレーニングについて書きます。